思考の種

覚書として

【読書メモ】脳が冴える15の習慣—記憶・集中・思考力を高める (生活人新書)

【読書メモ】脳が冴える15の習慣—記憶・集中・思考力を高める (生活人新書)

 
築山 節

日本放送出版協会 (2006-11)

ISBN:9784140882023

【総評】

本書を一言で表すと、「脳のスペックを最大限活用するためのアイデア集」

科学的に裏打ちされた納得の理論で脳の使い方を学ぶことができた。

すぐに実践したいと思える内容が多数あり、読んでいて楽しめる良書である。

頭の回転数を上げるにはどうすればよいのか?

その答えとして本書では、制限時間の重要性を説いている。

脳の基本回転数を上げるには、時間の制約が必要です。

距離と時間から速さを算出する式がありますが、それにたとえて言えば、距離は仕事の量や問題の量です。

何時までにこれだけの仕事をしなければならない、何個の問題を解かなければならないという状況が与えられていないと、速さである脳の基本回転数は上がりません。

これを逆に考えてはダメです。

一定の基本回転数が先にあり、時間をかければそれだけの距離が出せる(多くの仕事ができる)わけではないということです。

つまり、頭の回転を速くしたければ厳しい制限時間を設定せよとのこと。

夏休み最終日に尋常ではないスピードで宿題を終わらせる時のあの感覚。

確かに短い制限時間で追い込みをかけたときの集中力と思考の速さは平常時とは異なるものがある。

この短い時間制限時間で頭の回転数を最大限高めるという考え方は赤羽雄二氏が提唱する「ゼロ秒思考」を思い起こさせる。

脳の力を鍛えるには、最大限回転数を上げた状態とリラックス状態を交互に繰り返すのがよいとのこと。

同じ一生懸命に仕事をするのでも、「試験を受けている状態を一日に何回つくるか」という方向に考えを切り替えていかないと、いつまでも脳を上手く使えるようにはならないと思います。

これには経験上強く同意できる。

ゼロ秒思考やひとりブレスト、戦略立案などの脳に負荷をかける行為と、瞑想やパワーナップなど脳を脱力させる行為とをインターバルで繰り返しているときの「脳が覚醒している感覚」を思い出す。

そして、時間制限は頭の回転を速める以外の効果も期待できるとの。

24時間あると言われたら何から始めていいのか分からなくなってしまう仕事でも、本当に90分しかなかったら、「最低限、これとこれはやらなければいけない」「こちらよりこちらの仕事の方が重要度が高い」ということを強制的に判断するはずです。

そして、必要十分な仕事というのは、そういう厳しい時間の制約の中で組み立てたものである場合が多いと思います。

過度に時間があると本筋から外れたところに時間を費やしてしまうことがあるが、厳しい時間制限を設けることで本筋に集中する。

その他にも行動予定を立てることも脳の力を最大限発揮させるために有効であるとのこと。

その日にやるべきことを当日の朝か前日の夜に書いて並べてみる。

書かなくても分かると思われるかも知れませんが、耆いてみると、行動を意識して行う力が強まり、何となく行動して失敗したり、忘れ物をしたりすることが少なくなります。

そのときに「ここまでは何時までに終わらせる」という時間的要素も書き加えておくと、もっといいでしょう。

行動予定表が、時間の制約を意識させるきっかけにもなってきます。

その予定通りに実行できたかをチェックする習慣を持つとさらにいいです。

予定通りに実行できたときには、満足感が発生し、それが意欲の向上につながります。

予定通りにいかなかったときには、その理由を簡単に分析してみましょう。

普段の生活を見直す

著者は脳の力を発揮させるためには日常生活が大切であると言う。

思考が混乱しているときには、生活のリズムも崩れている場合が多いので、それを整え直すことも大切です。

時間の制約を意識して仕事をし、夜は睡眠中の整理力に期待して早く寝る。

それで朝一定の時間に起きるリズムが整えられてくると、脳がより冴えた状態になっていきます。

まずは脳に本来の力を取り戻させることが重要です。

忙しいときほど、ベーシックな習慣を大切にするようにして下さい。

生活習慣の大切さに関して異論はない。

特に睡眠は大切であろう。本書では睡眠導入に関しての記述もある。

布団に入ったら、足の指から順に、足→腰→背中→手の指→腕→肩→首と意識して力を抜いていきましょう。

特に毎日プレッシャーの中で仕事をしている人は、寝ようとしているときでも体に力が入っているので、この習慣が有効だと考えられます。

これは、ヨガの手法に似ている。

筋肉の弛緩により先に身体をリラックスさせ、それに合わせて脳がリラックス状態に入るということであろうか?

行動の組み立て

行動の組み立てを行う時には前頭葉を使うのだが、現代の社会では前頭葉を使う機会が減ってきているという。

行動の組み立てはITの側で用意してくれ、操作している人間は、細切れの選択・判断だけしていればいい。

生活の中に、そういう場面がどんどん増えていると思います。

カーナビも、文字通り行動を誘導してくれる道具です。

道順を組み立てるというのも、前頭葉を使う選択・判断・系列化ですが、その仕事をカーナビが代行してくれる。

現代には、そういう「ナビゲーション社会」とでも呼ぶべき一面があると思います。

そうして、下手をすると一日中、大きなことから小さなことまで、自分の脳を使って行動を組み立てた場面がどこにもなかったということもあり得てしまうのです。 

一理ある。

仕事の現場においては前頭葉を酷使している人とまったく使っていない人の両極化しているようにも感じる。

本書では組み立ての方法論についても言及している。

複雑な組み立てが要求される仕事が発生したときにも、書くことから始めるといいでしょう。

まずは問題解決のゴールを設定し、そこに至るまでのプロセスを大筋で考えてみる。

それを書きながら考えると、主要な手順やその前後に発生してくる作業、選択・判断の場面などが見えやすくなります。

時には、問題解決のゴール自体を修正した方がいい場合もあるかも知れません。

それを臨機応変に考え、手順を並べ替え、より的確な問題解決の手段を組み立てる力が、いわば前頭葉のテクニックです。

必要な要素を書いたり消したりしながら組み立てを考えたら、フローチャート式にまとめるといいでしょう。

一目で分かるように清書すると、そこでまた思考が整理されます。 

やはり一度書き出すことは大事である。

さらに規模が大きく複雑に感じる仕事に対しての思考の整理に関しては思考をファイル化することを推奨している。

大きな仕事を任されたときには、思考を整理するということがどうしても必要です。

人間の脳には限界があるので、100個の問題を覚えていろと言われても、とても覚えていられません。

100個の問題を、たとえば五種類の問題に分類して、A、B、C、D、Eの案件があるという風に整理するから、大ざっぱに覚えていられる。

さらにそのAの問題にはa、b、c、d、eという問題があるという風に整理するから、後でAの案件の中にあるaの問題には、a1、a2、a3、a4の要素が含まれているという風に、100個の問題全部を思い出せるわけです。

これを思考の「ファイル化」と呼びます。

これは、クラスタリングやロジックツリーに通ずるものがある。

もしくはマインドマップやアウトライン思考といった見方もできる。

このように既知に関連付けて理解するのは、シナプス形成を行う上で有利なのである。

神経細胞に関連することとして、ネットワーク構築のためのアイデアも紹介されている。

何か新しいことをしようとしているとき、脳の中では、神経細胞がニューロンと呼ばれる手を延ばして、他の神経細胞とネットワークを構築しようとしています。

この新しい連絡をつくるというのは、脳にとってなかなか大変なことですが、その活動が自分にとって良い結果をもたらした、またはもたらしそうだということが分かると、ネットワークが構築されやすくなります。

その良い結果というのは、仕事で成功したり、お金が儲かったりということでももちろんいいですが、誰かが自分の話に興味を持ってくれている、喜んでくれていると感じられるだけでも十分です。 

つまりは脳が悦に入る状態になっていないと、新しいネットワーク構築は難しいということだ。

ここでのポイントは自分が「良い結果」と感じることができればよいということだろう。そう感じられる仕組みさえ先に用意しておけばよいわけだ。

記憶力を鍛える

マジック7

七つ以上の要素を同時には処理できない人間の脳には「マジック7」と呼ばれる性質があり、同時に脳の中で保持したり、系列化したりできる要素は、多い人で7つ、少ない人で3つの5±2が標準的と言われています。

それ以上の要素を一度に頭に入れようとすると、どうしても忘れてしまう。

それを補うには、情報を書いて目に見える状態にしておくか、どこかでまとめをすることが不可欠です。

マジック7は他人に情報を伝えるときにも意識しておく必要がある。

また情報を記憶するのは後にアウトプットするためである。そこを意識してインプットすることで後々に使用できる記憶を残すことができるそう。

情報を意識的に脳に入れるためには、基本的に、その情報を出力する、いつか人に伝えるという前提が必要です。

その理由は、こう考えてみると分かりやすいでしょう。

たとえば、街を歩いているとき、ただ何となく歩いていて、後で、「途中に何がありました?」と聞かれても、思い出せる情報はごく限られているはずです。

しかし、先に、「途中に何があったか後で教えて下さい」と言われていれば、めぼしい情報を意識して脳に入力しようとするでしょう。

そうすると、後でたくさんの情報を思い出すことができるし、その記憶は時間が経っても消えにくくなります。

使える記憶を増やすためには、そういう指示をされていなくても、いつか出力することを前提として、意識的に情報を取ろうとしていることが大切なのです。

これは本を読むときに何を得ようと意識して読むのと、そうでないのとでは記憶される内容が異なることと同じである。

アウトプットを意識しながらインプットするということは習慣にしたいものだ。